寄付・応援する
Case
2025.11.26
【山崎亮 × 呉哲煥 特別対談レポート】 「面識経済」から紐解く、これからの社会とコミュニティ

晴れやかな週末の土曜日、studio-L代表の山崎亮さんをお迎えし、NPO法人CRファクトリー代表の呉哲煥との特別対談イベントが開催されました。「面識経済から紐解くこれからの社会とコミュニティ」をテーマに、20年以上にわたるコミュニティ実践の経験から生まれた、現代社会への鋭い洞察が語られました。

イベントは、山崎さんの新刊『面識経済』に込められた思想を深く掘り下げることから始まりました。

「忙しい」という言葉の裏側にある「経済」

山崎さんが「面識経済」の思想にたどり着いた背景には、長年コミュニティデザインに携わる中で感じてきた、二つの大きな違和感があったといいます。

 一つ目は、「地方創生」「活性化」といった言葉への疑問です。「再生」とは「再び生み出す」こと。つまり、これまでの価値を否定し、外部の力で変えようとするニュアンスが潜んでいるように感じられたそうです。自身の仕事も「公共施設の設計」から「商店街活性化」へと変化していく中で、消費を促すデザインのあり方、つまり「人々に必要としないものを、欲しくなるようにデザインする」という、ヴィクター・パパネックが指摘した「いかがわしい職業」としてのデザイナー像に、自身の立ち位置を重ね合わせました。

 そして、もう一つの、そしてよりパーソナルな問いかけとなったのが、地域活動への参加を呼びかけた際に多くの人が口にする「忙しいから参加できない」という言葉です。山崎さんはこの言葉の奥にあるものを掘り下げていきました。「なぜ忙しいのですか?」「食べていくためです」—このやり取りを続けるうちに、見えてきたのは、私たちが「食べていくため」に使っているお金の多くが、実は最低限の生活(第一の欲求)ではなく、他人との比較や見栄から生まれる”第二の欲求”を満たすために費やされているのではないか、という問いでした。

経済成長と幸福度は比例しない

この「第一の欲求」と「第二の欲求」という概念は、経済学者ジョン・メイナード・ケインズの思想に基づいています。ケインズは、人間の欲望には「絶対に満たされなければならない欲求(第一の欲求)」と、「他人よりも優位に立ちたいという欲求(第二の欲求)」の2種類があると言いました。第一の欲求には上限(キャップ)がありますが、第二の欲求には天井がありません。

 そして、山崎さんは経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイスの『豊かな社会』を引用し、この考え方をさらに発展させます。経済成長を続ける国は、必然的に第二の欲求を刺激し続けることになります。人々が「もっと、もっと」と消費を続けることで経済は回り、GDPは高まります。しかし、それは人々が「常に満足していない状態」を維持していることの証でもあります。つまり、経済成長と国民の満足度や幸福度は、必ずしも比例しないというのです。

 現代の広告やSNSは、この第二の欲求を巧みに刺激します。

 私たちがSNSで知り合いの投稿に「いいね」を押すと、その隣には、投稿者が持っているバッグや訪れた場所と関連性の高い広告が表示されます。これは、「面識(顔見知り)」という関係性を悪用し、消費を促す仕組みです。山崎さんは、この構造に疑問を呈し、自らFacebookをやめたエピソードを紹介しました。

「面識経済」という生き方の提案

「では、どうすればよいのか?」

山崎さんが提示したのは、消費社会から距離を置き、自分の生活における「面識比率」を高めていくという生き方です。

 「消費的余暇」から「活動的余暇」への転換。お金を使って旅行やショッピングを楽しむのではなく、地域でワークショップに参加したり、近所のパン屋さんで店主と会話したり、といった顔が見える関係性の中で楽しむ活動です。これによって、私たちは「お金を使わずに満足する」ことを学ぶことができます。

無駄な消費が減れば、生活に必要な労働時間も減らせます。そうして生まれた余暇を、再び活動的余暇に費やす。この好循環が回り始めれば、私たちは経済成長に貢献しなくとも、より豊かな生活を築くことができると山崎さんは語ります。

対談が深めた「面識」の価値

山崎さんのプレゼンを受け、対談セッションではNPO法人CRファクトリー代表の呉さんが、自身の読後の感想を語りました。呉さんは、本のタイトルにある「面識経済」だけでなく、「面識比率」という概念が重要だと指摘します。すべての経済活動を面識だけで行うことは現実的ではありませんが、その比率を意識して高めていくことで、生活の質が変わるという点に共感を示しました。

 また、呉さんは「政府の調整機能」と「コミュニティの調整機能」の違いにも言及しました。グローバル経済において、顔が見えないがゆえに企業が環境破壊などの「不都合な」行為に手を染める時、それを止めるのは法律や政府の介入です。しかし、近所のパン屋さんのように「顔が見える」関係性では、法律がなくても、相手を想う気持ちが自然な「調整」として機能します。

 水俣病や四日市ぜんそくといった公害問題も、企業と被害者との間に「面識」がなかったために引き起こされた悲劇と言えるかもしれません。山崎さんの語る「面識」は、単なる経済の概念に留まらず、私たちの社会や環境を守るための、最も原始的で、最も強力な安全弁なのだと、改めて気づかされる対談となりました。

 最後に山崎さんは、この本が「ワークショップに来てほしい人に読んでもらうために、読みやすさを徹底した」と語りました。難解な経済書ではなく、私たちの生き方を問い直すための、極めて個人的な実践の書である『面識経済』。その思想は、参加者一人ひとりの心に深く響き、それぞれの生活における「面識比率」を見つめ直すきっかけを与えてくれました。

 

対談動画(フルバージョンはこちら)

Donation

強くあたたかい組織・コミュニティを育む私たちの活動に少しでもご興味をお持ちいただけたら嬉しいです。皆様のご参加・ご支援、ご協力よろしくお願いいたします。

Contact

講座・セミナー・講演の開催をご依頼をご希望の方、その他のお問い合わせやご相談のある方も、お気軽にご連絡ください。